2018年9月9日日曜日

【感想】うたつかい30号

木曜深夜に首を盛大に痛めてしまった嫉妬林檎です。

さて主題のうたつかいはエッセイも含めてボリュームがすごいですよね。
読むのにも自然と気合が入ります。笑
すでにうたつかい31号が文フリで頒布されているらしいなか、前号の中から感想を書いていきます(遅)。


馬の瞳のようなひとだと思いつつ正面は避ける荻原さんの/岩田あを「乱世界」
馬の瞳のようをどのようにとらえるかですが、僕は顔の側面にある瞳と読みました。
正面を避けたいというのは恥ずかしさからでしょうか。しかし瞳が側面にあればしっかり荻原さんの視界の中心に入ってしまいます。タイトル「乱世界」にぴったりのユニークな一首です。

きみはもう捨ててしまった左手で未遂の春を遠いところへ/泳二「約束ノート」
左手で~がエモすぎてですねえ。(エモいの使い方はあってますかね…?)
守れなかった約束の連作ですが後悔はそれほど感じられず、優しさすら覚えてしまう雰囲気がすごくいいです。

夭折のをとこを思ふ 英国のほくろのやうなジブラルタルで/東風めかり「アヤ・ソフィアの見える窓」
異国情緒が素敵に感じられる連作でした。
土地や建物の名前を知らなかったのでググりながら読みましたが、今までの自分の人生に全く関係なかったものが突然目の前に突き出される刺激が楽しい。

敗戦をテロップで知る雨の日にこまかくちぎるグリーンサラダ/高松紗都子「完全なパフェ」
ここでの敗戦はスポーツの贔屓チームの結果でしょうか。一瞬戦争かと思いましたがそこまで深刻な感じではなさそう。が、やはり敗戦の言葉の力強さといいますか、穏やかな一首のなかでこの二文字が適度なアクセントとして効いているのがいいです。

この夜の叶うことのない会いたさが研ぎ澄まされて針になる朝/千原こはぎ「濁りの雨」
会いたいという気持ちが夜の間に針に変わってしまう、この針という痛みを連想させる言葉の選択が見事だと思います。会いたいと思う一方で、(会えない)現実をたんたんと見据えている大人らしさが見えてきます。

最近はきみに付箋を貼る日々ですくるぶしに青、左胸に赤/西淳子「中二病文具店」
可愛い一首ですね。中学生あるいは高校生くらいかな、直接的な言葉はなくても好きな人への思いが伝わってきます。貼られた付箋にはなにが書かれているんでしょうか。わたし、気になります。

感情を使ひ果たして眠るときわれに遺作のごときため息/濱松哲朗「冬の手摺り」
スーパー共感です。他人と接するとどうしても感情を消費してしまう(良い悪いの問題ではなく)。一日のすべてを出し切ったため息はまさに遺作ですね。

わかりやすく責められたなら 潮騒の記憶さやかに耳をつらぬく/氷吹けい「潮騒の記憶」
連作を通して抽象度が高い。こういう歌好きだなというだけでなく、読みきってうまく言葉にしたい。したいんですけど……ううぅ。
相手から遠回しに非難されており、さらにその非難が海辺での同様の記憶を呼び起こしている…といった感じでしょうか。

すこやかに生きよと願う母として君の小さい指を数える/福山桃歌「おかあさんって今日も呼んでね」
新しい発見や大きな飛躍があるわけではない親子の日常の歌ですが、逆にこういった歌のほうが言葉の選び方が大切になってくるのではないかと感じています。ありきたりなようでいて、でもグッと読ませる力があります。

輪郭を象るような熱だった初夏の写生で出会わなければ/藤本玲未「mimei」
これも読み解くのが難しい。ポイントは下句が倒置なのかどうかかな。
私は倒置ではなく後ろに続いていく言葉を出会わなければで切ったようにとりました。
みなさんどう読まれたのでしょうか。。

遠くから水膨らんでくる予兆わたしのなかの調和を乱し/吉川みほ「予兆」
わずかな恐怖を伴って読者の調和さえ乱してドキドキさせてくれる歌。予兆に不安になる主体はしかし連作の最後に春を見つけている。緊張感が心地よかったです。


ここからはテーマ詠「文房具」


シャーペンのつむぐ水兵リーベぼく、の、ふねをこぎ黒板は海/御殿山みなみ
授業中いつの間にか寝てしまったことを短歌でこんなにも自然に表せるのか…!という衝撃。ひとつ間違えれば鼻につきかねない読点の多用もこれ以上はないほどパーフェクト。すごい、すごすぎる。

ペン先に夜をたっぷり含ませて書いておきたい恋文がある/氷吹けい
夜は感情的になりやすい(科学的根拠があるかは調べてません)。
恋文を書くには昼ではだめなのだ。夜、ペンにまでたっぷり込めた思いはきっと届くでしょう。



以上13首への感想でした。
普段の数倍書いたのですこし疲れました。そして私の語彙力のなさもそろそろ隠しきれなくなってきました。
他にもたくさんの素敵な歌が掲載されているのでぜひぜひ。
(嫉妬林檎も参加させてもらってます!)


気がつけばもう9月なんですね。なんだか今年はなにもできていない気がします。
残り4ヶ月で取り戻したいなあでも無理だろうなあ。

0 件のコメント:

コメントを投稿