2018年6月23日土曜日

「氷のひとの詩」

物心ついたときにはすでにひとり
悲しみは氷結させ ナイフを胸に預けて歩く
スポットライトも繁華街のネオンさえいらない
冷えてゆく夜の空気で安心している

人間はどうしようもなく不格好で
世界は歪であることを隠そうともしない

一瞬、閃光が通り抜けて
急に涙がこぼれてくる
何も変わっていないはずなのに
置いてきたはずの悲しみが泣いていた

2018年6月2日土曜日

【感想】鉱物短歌企画vein

veinは堂那灼風さんが鉱物好きなことから企画されたようで、誕生石など作者自身に関係のある石をテーマに短歌だけでなく小説やエッセイなどの短文も載っており、鉱物への愛に溢れたネプリになっています!
巻末には参加者それぞれが扱った鉱物の索引もついていて、鉱物に詳しくない僕にもわかりやすかったです。

また、 I Love youと言ってくれ の雨さんによる素敵なイラストも載っていて、随所に楽しめる要素が満載です。



では感想を~。

星葉石銀星石をしたためた抽斗はいま星団になる/岩田あを「猫と耳鳴りと鉱物と」
おそらくはどこにでもあるような抽斗。しかし名前に「星」を含んだ石を収めるとひとつの大きな星団となる。日常の何気ないシーンに壮大な物語を見る着眼点がすばらしい。

はじめてはこわいそれでもあこや貝、あなたの甘美なくるしみが好き/海老茶ちよ子「海のおまつり緑のひかり」
官能的で美しい一首。自分の身体の行き先すらも俯瞰しており、経験するすべてを大切なこととして受け入れている様子が連作全体から伝わってくる。

開かずに萎む牡丹のうすれゆくみづのひかりのわたしはだれだ/黒井真砂「浸透圧/透過光宮」
下句で一気に引き込まれました。内容はうまく汲み取れなかったのですが、それをさしひいても心に訴えかけてくる歌だと思います。

わたしたちほどかれていく ほどかれて日の出の2分前にととのう/田村穂隆「みどりいろの太陽」
「ほどかれる」とはどういうことだろう。僕は身体や記憶が分解されて日々の生活の中で積もった汚れや苦しみを捨て去っていくイメージで読みました。日の出2分前にととのってしまうのは染み付いたすこし寂しい習慣でしょう。

道端の石を蹴りあう 今だけはダイヤモンドと同じ価値あり/石勇斎朱吉「お気に入りの宝石」
道端の小石を蹴ってその石がオパールだとして粉々になれ/藤田美香「オパールを蹴る」
最後は2首をあわせて。前者は道端の石(を蹴りあう時間)をダイヤモンドのようだと愛しく詠い、後者は石がたとえオパールでも粉々になってしまえ、むしろオパールくらい高価な石であったほうが粉々にしがいがあると荒れた感情が現れている。
どちらも似たようなシーンを詠んでいるのに内容がまったく違っていて面白いです。


最後に拙歌2首(無題)を。
大粒の宝石のせた紫陽花とやがて右手を握る左手
最後まで離さなかった証としてさよならの頃にうまれる真珠


5月中にブログ更新するつもりだったのですが、6月に突入してしまいました。
またぼちぼち生きていきます。紫陽花を見に行きたい。