2018年11月11日日曜日

【感想】うたつかい31号

前回更新から少し空いてしまいました。
うたつかい31号、今回ものんびり感想を書いていきまあす(*^^*)


きみが手に取るまんじゅうが世界にただひとつつぶあんでありますように/尼崎武「花になる」
人はみなそれぞれ違う人生を歩む。生きていれば苦しいときもある。それでも君には幸福であってほしい。そんな強い思いをただぶつけるのではなく、「まんじゅう」「つぶあん」といった親しみやすい言葉で調和させている。なんて優しい歌だろう。

水田の地図の記号のそのままに前に倣えと青き稲立つ/杏「水無月に」
水田の地図記号はまっすぐな稲の様子から作られたのだろう。
故に「記号のそのままに」はひどく当たり前のことなのだけれど、違和感を覚えることなく流れるように読んでしまう。そんな自然さが心地よい。

あそこの毛(寝てるあいだに抜けたやつ)封筒に入れて送ってもらう/たかはしりおこ「『フラッシュバックに勝つる』をひらく」
いったいどういう関係の二人なのだろうか。前半だけを見ると懇意であるかのように思えるが、後半いっきに謎めいてくる。捨ててもらってはダメで送ってもらわなくてはなのだろう。なんとも奇妙な関係である。ナイス害さんの「フラッシュバックに勝つる」を読めば分かるのだろうか。

詠む人が読む人でしょうカラオケに歌うひとしかいないみたいに/春森しゆう「顔が生まれる」
難しい歌です。倒置法が用いられているのですが繋がりがしっくりこない。
前半の57と後半の577はそれぞれ単体で見るとおかしくないのに、繋げると途端にわからなくなってしまう。どう読めばいいのでしょう…。

正しさは雷雨のようで安全なところからならきれいに見える/御子柴楓子「檸檬」
正しさはきれいである。正しいことをしているひとはかっこいい。しかしそれは自分がその正しさと関係のないところにいるからだ。自分に向けて正しさを突きつけられたとき、僕は果たしてそれをきれいと言えるだろうか。大切なことを心に問いかけてくる一首だ。

こゑ出して『火垂るの墓』を読みをりき朝のひかりの待合室に/山川築「灰羽」
5首ともすべて美しく、そのなかでも圧倒的に輝いているのがこの歌だ。悲惨な戦争を描いた火垂るの墓を黙読するのではなく音読している。主体の気丈で満ち足りた心を示すかのように待合室には朝のひかりが差し込んでいる。イメージが映像として脳内に流れる歌は貴重だ。


感想は以上6首ですが、ほかにもたくさんの素敵な歌が収録されています。
嫉妬林檎はテーマ詠「アルファベット」で参加させてもらっています!

ところでこのうたつかいで私が密かに楽しませてもらってるのが、巻末の参加歌人さまご紹介のコーナー。
一言コメントと毎回テーマ詠にちなんだ質問はみなさん個性が出ていて楽しいです。
嫉妬林檎のコメントは毎回憂鬱でなんだか申し訳ないですね。次は明るい話ができればと思います。
それでは~。